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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年2月25日 00:00

誰もが大学に学べる夢(1):英国「チャイルド・トラスト・ファンド」の挫折

先日、担当講義で英国の労働党政権(1997年-2010年)が2005年4月から実施していました「チャイルド・トラスト・ファンド」について説明しました。

お話しながら、このプロジェクトが壮大な社会実験であったことを改めて感じました(2010年5月の英国総選挙において労働党が敗北し、保守党と自由党の連立政権となり同ファンドは廃止されます)。

「チャイルド・トラスト・ファンド」(Child Trust Fund)は2002年9月以降に英国で生まれた全児童を対象にした(将来における大学等の教育費の捻出を念頭においた)非課税貯蓄システムでした。

政府(当時、労働党政権)は、子供の誕生及び7歳到達時の2回に渡り、250ポンドの小切手を送付します。ただし、年間所得が13,480ポンド未満の世帯の子供には250ポンドが上乗せされ、総額500ポンドが支給されます【現在、1ポンド=130円弱ですが、2005年の段階では1ポンド=200円前後です】。

育児責任者(親)はその小切手によって子ども名義の口座を開設します。

同口座には毎年1,200ポンドまで両親、親戚、友人などによる積み立てが可能で、利子や運用益は非課税となります。しかし、同ファンドは対象の子供が18歳になるまで引き出すことができません。同ファンドの18歳到達時の用途は教育費に限定していませんが、大学等の高等教育機関の授業料を賄える額が想定されています。

つまり、どれ程、貧困であっても英国に生まれた子供ならば18歳時点において数千ポンドの資本があり、大学進学という選択が経済的には可能になるのです。

学力的な問題はありますが、大学進学率は年々上昇しており、門戸は大きく開かれる傾向となっています。現在の英国の大学学部進学率は日本と同じ約50%ですが、このファンドを活用すれば、十数年後、(100%は有り得ないでしょうが)、70%、80%の若者が大学進学を選択したかもしれません。

しかし、この「チャイルド・トラスト・ファンド」は英国が右肩上がりの経済成長を成し遂げている時に考案されたものです。英国経済のバブルは、2008年にリーマンショックによって終焉し、不況に転じますと税収は落ち込み、財政赤字に陥ります。

ギリシャの財政危機が世界中から注目されていた最中に行われました2010年5月の英国総選挙において、労働党は財政再建を主張する保守党と自民党に敗北し、下野することになります。保守党のディビット・キャメロン新政権は公約通り、財政健全化を目指し、前政権の「チャイルド・トラスト・ファンド」は廃止されます。

国民の多くが貧富の格差なく大学教育を受けられるシステムの構築は国単位では理想とも言えます(次回、その問題点にも言及します)。グローバル化の中で国家が国際競争力を増すためには、国民全体の学力の底上げが不可欠ですが、現段階の英国においては財政上、現実的ではなかったことになります。

英国では教育において理想と現実が乖離しています。もちろん、それは英国だけの課題ではありませんが。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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