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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年2月 8日 18:49

スイスの時計はなぜ売れているのか:高級時計の付加価値

「物造り大国」日本は危機に直面しています。

2012年3月期決算においてソニー、シャープ、松下電器の赤字はそれぞれ約2,200億円、約2,900億円、約7,800億円(ロイター、2012年 2月 1日、2日、3日)に至っています。電化製品のコモディティ化が進み、更に円高により価格で負ける日本のメーカーは非常に苦しい戦いを強いられています。

これだけ各社の赤字が続きますと、一社だけの問題ではなく、構造的な課題があることが明らかでしょう。日本のメーカーは長年、「比較的安くて良いモノ」を生産してきました。しかし、今、日本の電気製品はコモディティ化の中で「比較的高くて普通のモノ」になってしまったのです(ロンドンやジュネーブの電気屋さんを覗けば一目瞭然です)。

円高の中で、価格競争では絶対的に不利ですので、付加価値を高めるしかありません。

日本同様、EUに加盟していないスイスは、ユーロ危機において自国通貨スイスフランが対ユーロで高くなり、輸出産業が打撃を受けています。

しかし、その中で、スイスの「物造り」産業の代表格であります高級時計の売り上げが絶好調です。

スイス時計協会によりますと、2011年、クリスマスセール前までの総売上は180億フラン(約1兆4,580億円)、年平均では19.1%の成長となっています(swissinfo.ch, 2012年1月15日)。数十万円から数百万円のスイス製の高級時計を、この不況下に誰が買っているのでしょうか。

ベスト3は香港、米国、中国。

特に中国は2008年の第7位から2011年に3位にまで上昇し、3,000フラン台(約24 万円)の価格の時計は特に人気が高く、今後も市場として有望であるようです(同上)。

時計産業は、付加価値とは何かということを端的に示している良い例です。

世界で最も時計を製造しているのは、中国であり、香港を含めれば、世界の8割~9割の時計が中国で生産されています。

その中国で、スイスの高級時計の売り上げが上昇しているのです。なぜならば、スイスの時計は中国では生産されていない高級時計だからです。2007年の統計では、中国から輸出された腕時計の平均単価は 2 ドル(輸出価格)、香港からの平均単価 11 ドルに対して、スイスの平均輸出単価は 563 ドルだったのです(スイス時計協会「2008 年スイスと世界の時計産業」)。

中国で生産されるのは非常に安い時計です。薄利多売によって利益を上げます。

一方、スイス時計は高級であり、時計としての単純な機能のみならず各メーカーの付加価値(ブランド)がモノを言います。

スイスは昔から高級時計を製造してきました。しかし、日本メーカーが台頭するまでは安い時計も造っていたのです。1970年代から1980年初めに、安くて壊れにくい日本の時計メーカーに市場を奪われたスイス時計メーカー各社は高級時計に特化し、その後、復活していきます。

先進国の製造業において付加価値化は不可避です。

付加価値化とはマーケティングにおけるブランド化ですが、製品自体は職人志向(必ずしも、職人の手作りとは限りませんが)となるかもしれません。グローバル化時代の製造業が職人志向とは皮肉ですが、先進国のメーカーは薄利多売の商売において途上国のメーカーには勝てないのです。

この際、国内での物造りを止めたほうが良いという極端な声もあるかもしれません。確かに、先進国はどこも製造業の比率を下げてきています。メーカーの製造拠点の海外(途上国)移転も増加しています。

しかし、諸産業のバランスを維持することこそが、国にとってリスクヘッジであるという観点に立てば、製造業も、農業も付加価値を高めて先進国にしかできない方向性を模索すべきであると考えます。日本の企業にとっても、海外生産を中心にして途上国メーカーと価格で勝負しても、利は少ないでしょう。

高くても欲しくなるようなモノを創るしかないのではないでしょうか。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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