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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2011年9月

2011年9月 4日 04:24

グローバル化する日本企業(2):就職難を考える

日本企業のグローバル化の進展は、国内の雇用に大きな影響を与えると考えられます。

一例として、今回は大学生の就職難を採り上げてみます。

2011年2月1日の段階における大学生の就職内定率は77.4%で過去最低で、就職希望者のうち、卒業前にして就職先が決まらなかった大学生が推計で約9万人とされています(朝日com. 3月18日)。

この就職難をリーマンショック後の不景気といような一時的な現象と認識すべきではないでしょう。近年のグローバル化によって企業の求める人材が、大きく変化していると考えるべきです。

今後も、この就職難は景気の動向にかかわりなく続くのではないでしょうか。

中国事情に詳しい大学教授に伺ったところ、中国の大学の日本学科の卒業生はほぼ完ぺきな日本語を話し、日系企業、欧米企業が奪うように彼らを求め、就職が決まっていくそうです(中国の大学全体としては就職難のため、彼らは大学に入学しても猛勉強を続けているとのこと)。日系企業、欧米企業の場合、従来、中国の大学卒の学生は、中国の子会社での採用でしたが、近年のグローバル化によって本社採用も増えているようです。

あらゆる分野において「発想の転換」が必要です。

もし、あなたが現役の学生で、日本で「一流」と呼ばれる大学に通っているならば、もう一度、「一流」について考えてみましょう。

企業がグローバル化(脱日本企業化)しているのですから、当然、人事もグローバル化していきます。あなたが自覚している、していないにかかわらず、就職において北京大学、ソウル大学、ハーバード大学、パリ大学、オックスフォード大学の学生たちと同じ市場で競わなくてはならないのです。

もし、あなたが現役の学生で、日本で「一流」と呼ばれる大学に通っていないならば、もう一度、「一流」について考えてみてください。

あなたの大学名も、東大でも京大でもグローバル市場ではそれ程の差にはなりません。地球の裏側では日本国内の優越感も劣等感も殆ど意味がありません。

もし、あなたが今年就職できなかった9万人の1人であるならば、もう一度、グローバル化のことを考えてみましょう。

あなたにとっては幸いにしてグローバル化の中で年功序列も終身雇用も崩れつつあります。2年、3年の遅れは関係ありません。もう一度、現状を正確に把握し、本気で勉強してみましょう。

グローバル化は大企業だけの話なのではないないかと言われるかもしれません。

もし、あなたが大企業への就職を希望されていなくても、グローバル化からは逃げられません。グローバル化は大手企業だけの問題ではないのです。大手がこれ程、海外企業を買収し、グローバル化すれば、その動きは子会社や関連の中小企業にも影響を与えていると認識すべきです。

あなたが就職した中小企業が、丸ごと海外へ生産、サービス拠点を移してしまう可能性も十分あり得ます。語学が苦手だから、もしくは海外に興味がないからと言って、中小企業に職を求めるような考え方は間違っています。私見では、多数の外国人を雇用している大手企業に就職したほうが、日本人社員が海外畑に回らない可能性が高いように思えます。

あなたが、日本において一流の大学生であろうと三流の大学生であろうと、大手企業への就職を目指そうと、中小企業への就職を目指そうと、グローバル化の波は押し寄せます。ですから、自覚して備える(勉強する)しかないのです。

大学名や学歴はそれなりに考慮されるかもしれません。しかし、大学の名前よりも、何よりもあなた個人が何を学んできて、何ができるかが問われるように思われます。あなたの名前よりも(一流だろうと三流だろうと)出身大学名が上回ることはないのです。

個人的にはグローバル化は多くの社会問題をもたらすと考えており、肯定できない点が少なくありません。しかし、同時にグローバル化は「不可避」であるとも認識しています(理由については8月10日のブログをお読みください)。

もちろん、政府は少子化対策や円高対策(産業構造の転換が求められます)を早急に行わなくてはいけません。しかし、たとえ、多少、少子化や円高にブレーキがかかり、一時的にグローバル化のスピードと影響を抑えることに成功しても、長期的な傾向は変わらないと考えています。

最大の問題は、日本の大手企業のグローバル化の動きに日本社会が追いついていない、人々がグローバル化の実態を「見ていない」、「見えていない」ことにあるように思えます。

私たちはグローバル化のマイナス面に対応しながらも、グローバル化を直視し、備えなくはいけない状況となっているのです。

 

2011年9月 3日 18:19

グローバル化する日本企業(1):日本企業の海外企業買収

日本企業が今年1月~7月に買収した海外企業は260件を数え、前年同期比25.6%増加しているそうです。近年で最も件数が多かった2006年の421件を超える勢いであり、買収総額は3兆4183億円で、前年同期比53.2%増と急伸しています(東京新聞2011年8月19日朝刊)。

最大規模は、武田薬品工業がこの5月にスイスの製薬大手、「ナイコメッド」社を、約1兆1000億円をかけて買収した一件です(ロイター、2011年5月19日)。日本企業の海外企業の買収額において歴代3位の高額でした。

同じ月に、東芝は約1863億円をもってスイスに本拠を置くスマートメーター(通信機能付き電力量計)製造大手の「ランディス・ギア」社を買収しました(ブルームバーグ、2011年5月19日、東芝プレスリリース「産業革新機構とランディス・ギア社への共同投資に関する契約を締結」7月25日)。

キリンホールディングスは、8月、ブラジル2位のビール大手「スキンカリオール・グループ」の発行済み株式の50.45%を約2 000億円で取得し、子会社化しています(朝日.Com、2011年8月2日)。アサヒグループホールディングスは8月18日、ニュージーランドの酒類大手「インディペンデント・リカー」を約976億円で買収すると発表しています(産経ニュース、8月18日)。

その他、NTTデータが情報システムを手掛けるイタリア・ミラノの「バリューチーム」、楽天がドイツ電子商取引サイトの大手「トラドリア」、みずほファイナンシャルグループがインドネシアの自動車ローン会社「バリモア・ファイナンス」をそれぞれ数十億から数百億で買収しています。

この海外企業の買収ブームは、1ドル70円、80円台で長期に推移している円高基調が第一の要因とされています。

確かに円高は否定できませんが、武田薬品や東芝が買収した企業はスイスに本社があり、スイス・フランも日本円と同様、ドルに対して高く、円高だけではその理由として不十分です。

よく指摘されているように、少子化による日本市場の縮小、各業界のグローバルな競争の激化等、円高以外の理由も加わっていると見るべきでしょう。

いずれにしましても、日本が東日本大震災と原発事故に襲われた2011年、日本の大企業は過去に無い程、グローバル化しているのです。

財務省は日本企業の海外企業の買収が、企業の競争力を高めるとともに、日本企業が持つ円もドルに転換されることによって、これ以上の円高に歯止めをかかることを狙い、海外企業買収を推進する方針を打ち出しています(毎日JP. 8月25日)。

しかし、日本企業は海外企業の買収のみならず、設備投資でも海外戦略を加速化しており、野村証券の木内登英チーフエコノミストは、「国内生産を海外へ移す形で海外投資が増えれば、雇用面などマイナスの方が大きい」と産業の空洞化を指摘しています(東京新聞2011年8月19日朝刊)。

グローバル化は日本企業の国際競争力を高めると同時に、脱日本企業化でもあります。日本企業が海外企業を飲み込む度に(海外の市場でビジネスをするのですから当然ではありますが)各企業の日本色が薄れていくと考えるべきでしょう。

そして、それは、初期段階においては海外企業の買収として始まっても、最終的には実質上の企業の海外流出となる可能性があり、日本における雇用者数の減少等、国益に合致することばかりではないようにも思えます。

たとえ、そうでもあったとしてもグローバル化は不可避であり、このような現状を認識して私たちのライフスタイルや人生設計を考えていかなくてはいけないのかもしれません。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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