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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2011年9月25日

2011年9月25日 23:59

厚みのある中間層は再生できるのか(2):総中流社会の崩壊

「一億総中流」社会はどのようにして崩れていったのでしょうか。

それはやはりバルブ経済崩壊後、不況の中でグローバル化が急速に進展した影響が大きいように思われます。

不況下において消費者は、当然、より安いモノやサービスを求めます。日本市場には途上国で生産されたより安価な製品がなだれ込みました。国内ばかりではなく海外市場でも、日本企業は安価な労働力を背景とする低価格の中国やインド製品と競わなくてはなりませんでした。厳しいコスト競争の中で、国内の製造業は打撃を受け、中小企業の非熟練労働者及び一部の熟練労働者は昭和の「豊さ」を維持できなくなります。

国内の労働条件も悪化します。派遣社員を認める労働者派遣法(1986年施行)が、1999年、2004年と改正され、対象業務を大幅に拡大し、正社員の数を激減させました。皆が同じである「総中流」社会が壊れ、職場でも格差化が進みました。

上記のような「犠牲」も十分ではなく、生産コストを重視しなければならない多数の日本企業は(円高、少子化の影響もあり)海外生産、海外移転を余儀なくされています。当然、国内の雇用は失われていきます。

このように日本の「強さ」の源であった「総中流」社会は内外から壊されていきました。グローバル化は日本国内における「総中流」社会の維持とは矛盾するのです。

それでも、私はグローバル化を一方的に敵視するような見方に反対です。

グローバル化は「黒船」のように外から他者として来るものではないのです。もちろん、構造上の外的要因も無視できませんが、グローバル化の推進者はモノやサービスに「安さ」を求める先進国(日本)の消費者としての私たちでもあるのです。つまり、私たち自身が「総中流」社会を無意識であったにせよ捨てた(捨てざるを得なかった)ことにもなるのです(消費者が「安さ」を求めるのはある意味で当然ですので、オールタナティヴはなく、仕方ないとも言えますが)。

しかしながら、90年代以降も日本はモノに溢れていました。日本製が途上国製に代わっただけであり、むしろ、デフレ経済で物価は安くなっていったのです。そのため、私たちは「総中流」社会の崩壊に気付くのが遅れた(もしくは今でも完全には気付いていない)のです。日本全体が不況だったために、グローバル化の中で格差化していく自分たちの姿が見え難くなっていたのです。

グローバル化によって「格差社会」が導かれるのは、日本だけの現象ではありません。

一般論的にはグローバル化によって途上国の安価なモノが先進国に流入し、先進国の製造業等の企業が安価な労働力を求めて途上国へ移転すれば、先進国と途上国との国家間の経済格差は縮小されます。しかし、先進国の国内の格差は拡大していきます。なぜなら、先進国内に留まった製造業は安価な途上国製品に、先進国の非熟練労働者は移民系労働者に、自国市場において勝てず、深刻な雇用問題が起こります。先進国で豊かな生活を送っている層は、途上国との競争に晒されない付加価値の高い仕事についている人々が中心になってしまうのです。結果として、先進国(特に大都市)は、所得格差が拡大していきます。

先進国は幾つかの例外を除けば、多かれ少なかれ雇用問題と格差問題を抱えています。ですから、表層に顕れる課題は共通します。

ただ、日本と他の先進国はここまでの道程が大きく異なります。もともと欧米先進国は「総中流」社会ではなく、格差を前提とした社会です。その延長上にグローバル化による格差も対応できます(それは、格差問題が課題ではないということを意味しませんが)。一方で日本はグローバル化と格差化が「一億総中流」社会の崩壊と共にやってきたために変動が大きいのです。

次回は、他国の例をみながら日本の格差問題を比較考察していきます。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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