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憲法から時代をよむ

第8回「地方自治の本旨」と条例-94条~92条(水島朝穂-憲法から時代をよむ)

 21年前、NHK が憲法記念日特集として放映した「わが町手づくり憲法--日本列島条例地図」は、タイトルも中身も魅力的だった。北海道の大学で教えているとき、それを録画したビデオを授業で使ったこともある。そこには、「イタチ保護条例」(沖縄県多良間村)のように、イタチやホタルなど、その地域の自然や動物を特別に保護する条例が出てきた。「仲人奨励金支給条例」(岩手県衣川村〔町村合併で現在は奥州市〕)のように、過疎対策として、結婚、出産、育児に奨励金を出すタイプもある。その後は「子宝奨励条例」(青森県大鰐町など)という形のものも増えている。「雪国の生活を明るくする条例」(新潟県新井市〔妙高市〕)は、豪雪地帯ならでは。雪下ろしのルール化である。「休肝日決議」(福島県泉崎村)は、毎月9日と29日を酒を飲まない「休肝日」とした。村議会「決議」という形式をとったのは、拘束力のある条例で飲酒の規制をするのは適切でないという判断からである。番組には、「休肝日」の午後11時半過ぎ、人々が居酒屋に集まりはじめ、午前零時に一斉に乾杯という場面があって、笑えた。それぞれの地域の特質をいかしながら、それぞれに固有の問題や課題を解決するため、その地域だけに効力が及ぶ自主立法、それが条例である。
  本連載は、日本国憲法を103条から逆にたどる旅をしているので、95条の「地方自治特別法の住民投票」について先に語ることになった。今回は地方自治と条例について語ることにしよう。

  憲法第8章「地方自治」。前回の95条を含め、全4カ条からなる。
  まず92条。「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」。ここから、地方自治の組織のありようや運営方法などについて、法律の形さえとれば、どのようにも決められると考えるのは早計である。「地方自治の本旨に基いて」という文言の位置に注意したい。92条をよくみると、「地方自治の本旨」は憲法自身が定めた原則であって、法律よりも上位にあることがわかる。だから、地方自治の組織や運営について、「地方自治の本旨」に反するものは違憲となる。

  「地方自治の本旨」とは何か。憲法は直接に定義していない。英文では"the principle of local autonomy "である。学説上、「住民自治」(93条) と「団体自治」(94条)が、車の両輪のように「地方自治の本旨」を構成するとされる。住民自治とは、地方自治体の政治や行政を住民の意思に基づかせるという制度設計であり、国民主権の地方的発現ともいえる。他方、団体自治とは、地方自治体が国から介入を受けることなく、自律的に行動できることをいい、垂直型権力分立の側面をもつ。

 住民自治を条文化した93条は、地方公共団体に「議事機関としての議会」を置き(同1項)、「長」と「議員」は住民の直接選挙で選ばれることを定めている(同2 項)。このように都道府県知事と市町村長の直接選挙制は憲法上の要請なので、例えば、知事の任命制を導入したり、「一定数以下に人口が減少したら、町村議会は廃止する」といった法律は、「地方自治の本旨」に反し、憲法違反となる。
 団体自治を定めた94条は、地方公共団体が、財産の管理、事務の処理、行政の執行について固有の権能をもち、かつ「法律の範囲内」において条例制定権を有することを規定する。94条には、条例について、「法律の範囲内」という表現が用いられている。地方自治法14条1項も、自治体が「…法令に違反しない限りにおいて…条例を制定することができる」と規定している。この条例制定権の範囲と限界については、さまざまな議論がある。
  まず、地方議会の自主立法である条例は、政令・省令といった国の行政立法と異なり、特に法律上の根拠を有しない。また、条例で罰則を設けることも可能である。憲法31条の「罪刑法定主義」(「…法律の定める手続によらなければ」処罰されない)に反しないという最高裁判例もある(最大判 1962.5.30)。一院制の地方議会は住民に直接選挙されているので、民主的正統性はきわめて強い。条例は法律に準じたものと考えられている。

 特に問題となるのは、実際の現場で、条例に基づいて行った規制と、法令による規制とが抵触する場合である。「法律の範囲内」ということから、直ちに法令が優先ということになるのか。かつては、国の法令がすでに規制している事項については、法律の委任がない限り条例を制定できないとする考え方が有力だった(「法律先占論」)。だが、この考え方は社会の複雑化と、条例による規制の必要性の高まりなどから後退し、柔軟な解釈や運用が登場するようになる。特に1960年代、公害問題が深刻な社会問題となると、革新知事時代の東京都などが条例で、国の公害規制法律よりも厳しい排出基準を定めたり、あるいは既存の法律が規制していない物質についての排出基準を新たに定めたりするようになる。前者を「上乗せ条例」、後者を「横だし条例」という。

 公害は各地域によってきめ細かい対応が必要であり、その点、国の公害規制法律は全国的に適用される「最低基準」を定めたにすぎず、それが「地方自治の本旨」に基づく法律のあり方だという解釈が登場する。さらに、この地方自治行政の核心部分において「固有の自治事務領域」があり、国が法律を制定しても、全国一律に適用される「最低基準」なので、自治体が「上乗せ」「横だし」規制を追加できるという説も主張された。
 判例をみると、最高裁が、道路交通法と公安条例の抵触が問題となったケースにおいて、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するだけでなく、それぞれの趣旨や目的、内容や効果を比較して、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって判断すべきであると判示している(徳島公安条例事件、最大判 1975.9.10)。
 こうした動向を踏まえて、法令の規制の趣旨が、全国一律に「限度」あるいは「上限」を要求しているような場合には、それを越えて規制を及ぼす条例は法律に違反するが、他方、全国一律の「最低基準」を定める場合には、それ以上の規制を各自治体に委ねる趣旨なので、上乗せ条例などは法律に違反しないという考え方が有力になっていく。
 公害規制を求める運動や実務の発展のなかで、法律の定める基準よりも高い基準を条例で定めることを正面から認める法律も登場した(大気汚染防止法4条1項など)。法律が「上乗せ条例」を予定しているわけで、地方の実情に応じて、アジャスタブルな条例による規制強化に期待をかけたものといえよう。法令と条例の関係は、「地方自治の本旨」に適合的に解決されるべきだろう。

  最後に一言。憲法92条にいう「地方自治の本旨」、プリンシプルは、住民自治と団体自治の総和にとどまらない。それは地方自治の一般条項として、地方自治の未来に向けて開かれた性格をもつ。今後、地方への権限委譲がいま以上に進んでいけば、国の権限を侵さない限り、原則として地方自治体の活動の範囲と可能性はさらに広くなっていくだろう。
 90年代、原発、産業廃棄物処分場、米軍基地などの地方受け入れをめぐって、当該自治体で住民投票が行われるケースが目立つようになった。住民投票条例を制定して住民投票を行い、その結果を首長や議会が尊重して決断する。諮問型の住民投票だが、そのもつ意味は決して小さくない。また、地方自治体の長や議員の選挙権を、一定年数以上継続して居住する外国人にも与える。これは憲法に違反しないという最高裁判例もすでにある(最判1995.2.28)。
 さらに、90年代になり、「自治体外交権」(自治体の対外交渉権ともいう)という形で、地方自治体が周辺諸国の自治体と越境的な協力関係を結ぶ動きが進んでいる。環日本海市長会議や北東アジア自治体連合などがその例である。確かに条約締結権や外交処理権は憲法上内閣にある(憲法73条2、3号)。だが、国の権限を侵さない限り、自治体が越境的な活動を展開する機会や可能性は今後さらに拡大していくだろう。「地方自治の本旨」を創造的に発展させていくことは重要な課題である。「地方は末端にあらず、国の先端なり」(山内徳信=水島朝穂『沖縄・読谷村の挑戦』岩波書店)である。 
                                                                                   
(2007年7月16日稿)

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