このコラムもいよいよ今回が最終回となりました。
最終回のテーマは、マーケティング的発想を活かした英語学習法を紹介したいと思います。
■ マズローの要求段階
マズローによれば、人間の欲求には以下の五つがあると言われています。
生理的欲求→安全の欲求→所属と愛の欲求→尊敬の欲求→自己実現の欲求
英語の習得がままならない人は、マズローの欲求段階に沿って考えてみるとよいでしょう。そもそも日本で暮らす限り、英語ができなくても、日常生活に支障もなく、身の安全も犯されることはありません。ということは生理的欲求や安全の欲求から英語を学習することはほとんど期待できないということになります。
しかし、たとえば自分が所属している部署のほとんどの人が英語を駆使して仕事をしているような環境にいると、自分のポジショニングが危うくなる心配や、周囲に遅れをとってしまっているという不安が生じるでしょう。そうすると、所属と愛の欲求が刺激され、英語学習を真剣に考えるようになるかもしれません。
また、上司という立場にある方は、部下や若手の手前、ある程度英語ぐらいできないと恥ずかしいという心理も働くかもしれません。この場合は、尊敬の欲求が英語学習をはじめるきっかけになるかもしれません。
世の中にはTOEICオタクや英語オタクと呼ばれる人たちがいますが、仕事や実務上の必要性もないのに英語学習に熱をあげられるのは、自分自身の達成感を味わうためなのかもしれません。マズロー的には欲求の一番上位概念である自己実現の欲求を満たしたいということになります。もちろん、英語でキャリアアップしたいという気持ちや、仕事のためにしぶしぶ英語学習をはじめることも、自分を成長させたい自己実現欲求が根底には流れているのだと思います。
マズローの欲求段階説から、私たちは、英語学習の動機は人それぞれだということを再確認することができます。つまり、仕事で使う必要性がなくても、単なる自己満足であっても、英語学習を始める動機は何でも構わないということです。そして、それらを他人に公言する必要もありません。表向きは「仕事で必要だから」としておき、内心は「英語ができたらかっこいいから」ということでも構わないのです。皆さんも、自分の中に眠っている欲求と向き合ってみてください。
■ コトラーの競争地位4種類
コトラーは、市場における企業の位置づけとして以下の4つに分類しています。
・ リーダー(市場でトップシェアーの企業)
・ チャレンジャー(トップ企業に続く二番目の企業。リーダー企業に挑戦)
・ フォロワー(リーダー企業のやり方を模倣し、後に続く企業)
・ ニッチャー(隙間市場に焦点を絞り、そこでのトップを目指す企業)
英語学習者にとっても、この分類は学習戦略策定に役立ちます。たとえば、自分のやり方に確信を持って学習したければ、他人がどんな学習法をしようとも「わが道を行く」ニッチャーの発想が不可欠です。独創性に富んでいるという点がニッチャーの長所ですが、独創性は行き過ぎると「独りよがり」にも通じますから、時には書店などに足を運んで、英語学習に関する見識を広げることも有効かもしれません。
一方、成功した人を模倣することから、自分のオリジナリティを見つけていきたいタイプの方はフォロワーとしての発想が役立つことでしょう。フォロワーは、巷で効果的だと言われる方法があれば、素直に挑戦してみるという柔軟さ素直さが強みです。しかし、英語学習法理論ばかりに詳しくなって、肝心の実践が伴わない「英語教育評論家」になってしまう危険もあります。ひとたび採用するときめたら、当面は黙ってその方法を実践してみる愚直さも時には必要かもしれません。
自分なりの確固とした学習法を持ちつつ、それを実践し、語学力を武器に理想的なキャリアアップを果たしている人は、リーダー的学習者と言えるでしょう。こうした人物は組織の中でも、一目置かれているはずです。一学習者という立場を大切にしながらも、自分が周囲の「お手本」になっていることも認識する必要もあるでしょうし、「学習モデルとしての自分」を意識することが、本人の学習継続のモチベーションになることもあるでしょう。彼らのようなモデル学習者の後ろには、チャレンジャーが控えており、彼らも力を蓄えて、いずれリーダーとしてのポジションを獲得するかもしれません。
普段の企業研修でも、こうした4つのタイプの学習者を観察することができます。日頃のビジネスコミュニケーションで指導者的立場を担っている人は、教室でもリーダー的役割を果たしてくれます。講師は、それぞれのポジショニングの学習者に合わせて指導スタイルを変えていきます。メンバーのほとんどが「わが道を行く」ニッチャー的クラスの場合、講師はリーダーシップを取ることよりも、各自の自主的学習を促進するコーディネーター的役割に徹します。一方、誰もリーダーシップを取りたがらないフォロワー集団のクラスでは、講師がぐいぐい引っ張っていく必要があります。
■ プロダクトライフサイクル
市場に導入された商品には、①導入期 → ②成長期→ ③成熟期 →④衰退期というプロセスがあります。このサイクルはよく人生にたとえられたりしますが、自分自身のライフサイクルやキャリアステージと英語学習には密接な関係があります。
新入社員を導入期ととらえると、この時期は先輩たちの仕事の模倣をはじめとして、仕事を覚えることで精一杯であるため、「仕事で英語を使うこと」がどういうことなのか具体的なイメージが沸かないかもしれません。そういう時期にビジネス英語などを身につけようと思っても、今ひとつピンと来ません。こういうときには、TOEICをはじめとする各種英語テストを通じて、英語力そのもののブラッシュアップに専念するのがよいかもしれません。
やがて自分なりの仕事スタイルが見つかる成長期には、導入期以上に仕事が忙しくなり、英語から一層遠のいてしまいがちです。一方で、「仕事で英語を使うこと」が実感できるこのステージこそ、ビジネス英語を身につけるには格好の機会と言えます。導入期に身につけた語学力が、キャリアにおける差別化要因として活かされてくるのもこの段階だと思います。仕事の忙しさと何とか折り合いをつけながら、英語をモノにするか、仕事の忙しさに将来への自己投資をないがしろにしてしまうか勝負の分かれ目です。
製品ライフサイクルでは、成長期でマーケットシェアを伸ばし尽くすと、今度はそのシェアを維持する「成熟期」に入ります。これを英語学習に置き換えると、導入期、成長期で身につけた語学力という財産を食いつぶしてしまわないように、日々少しでもいいので、学習を継続していこうということになります。
成熟期の後には衰退期が待っていますが、製品ライフサイクル的には、1つの製品の時代が終わって、次の製品の時代が始まるという「新旧交代」のタイミングとしてとらえることができます。たとえば、ずっと英語という言語に特化して学習してきた人であれば、別の外国語の学習を始めてみてもよいでしょう。他の言語の特性を知ることは、英語を新たな視点で「客観的」にとらえることにもつながります。英語に限らず、今まで注力してきた分野を、新たな視点でとらえなおすためにも、ぜひとも異分野にも目を向けてみることをお勧めします。
■ AIDMA(アイドマ)
消費者が商品を買うに至るまでの心理的プロセスを示しています。Attention(注意) Interest(興味) Desire(欲求) Memory(記憶) Action(行動)の頭文字を取ってAIDMA(アイドマ)と呼ばれています。
本コラムをアイドマに沿って考えると、こういう流れになります。
Attention(注意) :このコラムのタイトルに目が留まる
Interest(興味):このコラムの内容を読んでみる
Desire(欲求):少し英語を勉強してみたくなる
Memory(記憶):コラムで紹介された学習法を覚えている
Action(行動):英語学習を実際に始めてみる
このコラムが、皆さんにとって英語学習のActionを起こすきっかけとなればこれほどうれしいことはありません。
12回に渡ってお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
