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育てる力

第9回 俯瞰力(ふかんりょく)---7つのポイント(育てる力-安達洋)

育てる力」第九回のテーマは俯瞰力(ふかんりょく)です。
人を育てる立場に立たされたとき、その人の今だけでなく、過去や将来も想像しながらとりくむことで、目の前に展開されている「今」の悩みにも冷静に対処できるかもしれません。
このように、視界を広げていく力を「俯瞰力」と名づけ、「俯瞰力」を身につけるためのポイントを以下に7つまとめてみました。

1.時の俯瞰力

その人に歴史あり。その人の今は、過去の積み重ねの上になりたっています。今から少し目を離して、過去と将来にも気持を向けてみることで、その人をうまく育てていくヒントが見えてくるかもしれません。
たとえば、教えたことをなかなか吸収できない人がいたとします。「飲み込みが悪いのは資質だ」と片付ける前に、経験のバックグラウンドを観察してみると、単にその分野の経験がないだけだとわかったりします。世の中には、「経験でしか習得できないスキル」もあります。経験不足という問題を安易に資質の問題にしてしまうと、その人が持っているダイアモンドの部分を見逃してしまうことになります。ダイアモンドの人材を見抜くためには、人の「今」だけですべてを判断しない心がけが大切です。

こうした発想を持つと、何かを知らないことにも過剰反応しないようになってくると思います。知らないことは、今、知識を入れてしまえばそれで解消されてしまうからです。たとえば、英単語をうまく音読できない学習者がいたとしましょう。その原因は、単につづりと発音の違いを「知識」として入れてなかった、あるいは入れてもらえなかっただけのことだと考えてみます。そうすると、「laughやroughのghの部分はfと発音するという知識を与える」という極めてシンプルな解決策が浮かんできます。こうした考えから、「えっ、そんなことも知らないの?」と驚いたり呆れ顔をしたりすることは、人を育てる立場の人はやってはいけないと、私は思っています。

2.場の俯瞰力

「時の俯瞰力」がその人の歴史を感じる力だとするならば、「場の俯瞰力」は、その人が今いる環境を想像する力といえるでしょう。いわゆる「場の空気を読む力」です。

教える仕事は何から始まるか?自分が教えたいことから始まるのではありません。お客様が何を学びたいかをつかみ、そのニーズに応えることから始まるのです。しかしながら、そんな私の考えをすんなりと受け入れてくれる講師はそれほど多いようには思えません。現在私が気持ちよく一緒に仕事をさせていただいている講師の方々は、皆、この感覚を持ち合わせた方々ばかりですが、探し出すのにどれほど苦労したことか・・・。

3.感情の俯瞰力

人を育てるとき、どうしても叱らなければならない場面に遭遇します。叱る場面に遭遇するたびに、私をきちんと叱ってくれた両親(とりわけ父親)の偉大さありがたさが身に染みます。なんとイヤな役なのでしょう、叱る役というのは・・・。

一般的に「怒るのではなく叱れ」とよく言われています。しかし、私はまだ、「怒る」という次元を抜け出せていません。長い前置きを話したり、遠まわしに注意しようとしたり、黙って相手の言い分を聞こうとしたり、いろいろと策を練るのですが、最後は必ず「怒り爆発」で幕を閉じてしまいます。

このように感情にはどうしてもコントロールができないことを素直に認めることが、感情の俯瞰力だと私は考えています。聖人君主にはどう逆立ちしてもなれません。せめて、ストレートな言動でいらぬ摩擦を起こさぬよう、中立的な立場の人の力を借りること、感情をすぐにぶつけず必ず一晩寝かせること、自分の感情をぶつけられる非当事者を見つけておく、という心がけだけは忘れないようにしています。

一方、比較的うまくコントロールができるようになったと思うのは、プラスの感情です。かつては、人材欲しさのあまり、十分な観察期間を置かずに、すぐに人を過大評価していました。過大評価が崩れるのは時間の問題。その後、過大評価した側も、された側もどちらも非常につらい思いをすることになります。プラスの感情こそ、少し離れたところから俯瞰するように心がけたいものです。

4.プロジェクトの俯瞰力

これはビジネスパーソン必須スキルだといえます。
そのプロジェクトのゴールはどこなのか?ゴール達成の時期はいつなのか?それに必要な要素は何なのか?実行部隊のひとたちが、プロジェクトの「全体像」をどれだけ自分のアタマの中に描いているかが、プロジェクト成功を左右します。

プロジェクトの俯瞰力は、先述の「時の俯瞰力」「場の俯瞰力」「感情の俯瞰力」の集大成といえます。過去の経緯を洗い出し、現在の状況を浮き彫りにし、将来の展開図を描くという一連の思考プロセスは「時の俯瞰力」といえます。所属部署という小さな単位から、会社全体、業界全体、国内情勢、日本情勢と視野を拡張していく力は「場の俯瞰力」。目の前のさまざまな不具合に気をもみつつも、そういう自分のことを、もう一人の自分が第三者的に眺めているような感覚。あるいは、思うように動いてくれないプロジェクトメンバーに対して、彼らの言動の背景にあるものを想像・理解しようと努め、短絡的な評価や判断に走らぬように、事態を上から距離を置いて眺めようと努める姿勢は「感情の俯瞰力」と言えるでしょう。

5.ミクロとマクロの両方を俯瞰する力

「俯瞰力」は、決して「全体像」だけを重視したものではありません。「ディテール」と「全体像」のバランスを保つことも「俯瞰力」だといえます。目先の利益を大切にしつつ、将来的な展開もアタマに描ける状態が、健全なビジネスセンスだと思います。この「目先」「個人」という世界がミクロ、「将来」「国単位」のような世界がマクロということになります。

人の指導においてもミクロとマクロのバランスが不可欠です。目の前の問題を解決するためのアドバイスや指導を行うのはミクロ的指導といえるかもしれません。一方、将来のビジネスビジョンを熱く語ったり、相手に「将来のキャリアビジョンを描きながら、目の前の仕事と取り組む」ように仕向けさせたりするマクロ的指導も大切です。

6.関連づける力

俯瞰することで、一見関係ない二つのものごとに共通点が見えてくることがあります。たとえばダイエットと英語。食に対する欲望をうまくコントロールすることと、ラクをしたいという欲求をコントロールして学習に時間を注ぐことは、「気持のコントロール」という点で非常に似ています。

芸術を鑑賞するときも、そこから少し目を離すと、芸術も仕事も「自己表現」の形態のひとつという発想にたどりつきます。俯瞰する思考が身についてくれば、「芸術=崇高なもの。それに対して、日々の仕事=俗的なもの」というような二極対立の発想もあまりしなくなるかもしれません。

英語習得に苦戦を強いられている受講者を目の当たりにするとき、自分自身も苦手なものにチャレンジする苦しさを想像します。自分と相手との間に、「苦手なものと向き合うつらさやおもしろさ」という共通点を見つけられれば、指導の伝わり具合も変わってくるように思います。

7.WHYからWHATへの転換力

日々目の前で起こっていることから、少し距離を置いてみると、WHYよりもWHATを意識するようになってきます。WHYは、「どうしてこんなことになったのか?」という現状分析の発想でもありますが、「どうしてこんな目に会わなきゃなんないの?」「どうしてあの人はあんな言動するの?」「どうして私だけこんな思いしなきゃならないの?」というように、出来事の原因を自分以外のところに求めがちになります。

一方、目の前の出来事から少し距離を置いてみると、「この出来事は私に何を学ばせるために起こっているのだろう?」「この人物は、僕に何を伝えるために現われたのだろう?」という「何を?」というWHATの発想ができるようになります。そうすると、「この出来事は、こういうテーマを学ぶために起こったのかもしれない。とすると、そのテーマをしっかりと学習しなければ、また似たような出来事に遭遇するかもしれない。二度とこんな出来事を味わいたくないのであれば、ここでしっかりと学習しておこう!」と、腰を据えて目の前の課題に立ち向かう覚悟もできるのではないでしょうか?

人を育てる作業においても、目の前で起こっていることに対して、「相手云々ではなく、環境云々でもなく、すべては自分自身がなんらかの学びを得るために起こっていることなのだ」と考えることで、謙虚な気持で相手と向き合えるようになるかもしれません。

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